T井R子について 17

事務局長だったN<じつは副、がついたけど、実質的に仕切っていたのはこの人>は、私が赤旗を読みに行く度、「民商に入らんか」
こう言い続けた。最初は、冗談だろ、と思っていた。何のキャリアもなかった者に、藪から棒にいうのだから、当たり前ではあった。しかしながら、その、Nの勧誘は、日増しに強まっていった。もしかしなくて、天安門の影響だったかもしれない。彼に焦りがないはずはなかった。それだから、「共産党に忠実な考えでない」私でも、引き入れたかったのだと思う。
「若い人がほしい」
確かにNはそう言った。
言われる私はどうだったかというと、超低賃金に超劣悪な環境、ついでに超苛酷な労働そしてお世辞にも「会社の人たち」と仲良しとはいえなかった私が、こんな「冗談から駒」みたいなオファーを蹴っ飛ばすわけはなかった。
当時の糸貫町にあったくそったれ紡績会社が、どれだけ劣悪だったかというと、25日無欠勤で働いても手取り8万強。いくら22年前でも安すぎ。寮は過去に述べたとおりのたこ部屋。蒸し暑い工場内で毎日汗みどろになって働いていたせいで、水虫は慢性化したくらいだ。これで学資?冗談でしょ、の次元だった。おまけに、どう考えても、あらゆる意味で社内環境はよくなかった。そんな背景があったから、なおさらだった。
しかもNは、「職安の紹介で入ったんだろ?」
頷く私に、
「なら<転職に>問題はないな」
てな具合だったから、入局後の、「ねぐら」まで、用意し、案内さえした。薄暗い部屋だったが、当然個室だったので、風呂もトイレもないところで、問題ではなかった_____


しかしながら、T井のこと、赤い大学のことを思わぬはずはなかった。
T井のように、人を平気で裏切れる者には、「誠」など意味を持たぬ言葉だろう。
けれども、T井の偽善にまやかされていた私は、どうしてもNたちに、岐阜に来た「真の目的」を話さざるを得なかった。
T井のような本質悪に言うだけ無駄なのはわかっているが、これは明言しておこう。
「誠」は、当たり前のことではない。
T井みたく裏切って、Nの持ちかけるオファーを無条件で受け入れたったよかった、いやきっと、そうした方がよほどよかった。春先に、偽善だったものの「よくしてくれた」ように見えた私は、どうしてもT井の似非とはいっても情けに応えたかった。別段、入る学校が赤い大学でなくてもよかったのだが、選択肢のひとつとしては、思っていた。
人の真心を裏切ることが簡単なのは、本質悪の人間だけだ。それがたやすくできないからNのオファーにも、随分悩んだ。過去に述べたとおり、民商に入ったところで「短い付き合い」で終わることがわかり切っていたからだ。
kimitoki
まだまだ続く