T井R子について26

挨拶もなしにT井は、
「帰って来てたの?何も連絡なかったけど」
彼女の声は聞けてうれしいはずだが、何かしらギャップを覚えた。春先の、ゆったり調のさもやさしげな口調ではなかった。やや早口な、高圧的なものだった。また、T井は「連絡がない」などと言ったが、帰郷前に、暑中見舞いで「盆に帰る」と伝えていた。こういう細かい嘘が、T井は多かった。根っからのうそつきは、細かい嘘が多い。当時の私は、見抜けなかった。暑中見舞いのことを言おうと思ったら、
「キャンプ参加するんやろ?」
場所は耶馬溪とのことだった。拒否するはずはなかった。
「頭数に数えたきね」
こう言って、電話を切った。
今の私なら、「馬鹿にするな、人の気持ちを何くらいに思ってるんだ」
そう怒っているような、T井の言動だった。まだまだ、携帯電話なんて、金持ちだけの持ち物だった頃だ。
何より、T井は、私を侮蔑していたのだろう。それが、にじみ出ていても、私が見抜けなかったに過ぎなかった。


その電話から3日後、8月は19日のことだった。
当時の私は、ある種の決戦を迎えた心積もりだった。
下心?ないわけないでしょ。
kimitoki