T井R子について10

私はその日、T井とPM7時ごろを約束した。今と違って、猫も杓子もケータイを持ってる時代ではなかった。
ところで、私は、その当時、新幹線について、ろくに知らなかった。米原駅はおろか、新幹線に乗るには普通乗車券はもとより特急券も必要だ、ということを知らなかった。それで、手持ちでは、普通切符しか、まともに買えないのに、米原方面でなく乗る列車を間違えて岐阜から名古屋に向かい、車内ででくわした車掌と言い合いになった。それでも、結局軌道修正?して、大阪方面に普通車で乗って行った。ところが、当然ながら、時間は新幹線の何倍もかかる。PM2時に岐阜を出て、新幹線で名古屋乗換えで九州に向かえば、待ち合わせ時間に間に合っただろう。しかしながら現実は、夕方5時ごろに大阪で、6時ごろは神戸を過ぎるのが精一杯だった。T井との、劇的な?再会を想っていた私は、いちかばちか、新神戸で乗れるところまで切符を買って、ひかりに乗った。最悪、きせるでつかまるかも、と思った。でも、彼女との再会がために、ばくちに出た。この時、帰省ラッシュで、自由席はいっぱい、出入り口にたむろするしかなかった。いつ検札に、車掌がくるかとひやひやしたが、なぜか非着席の乗客には検札しなかった。車内では、T井が待ってくれてるように、とのやや虫のいい祈りと、車掌が検札したらどうしよう、という思いでいっぱいだった。岡山、広島、山口の通過駅。。。どんどん駅は過ぎるが、時間も過ぎていった。そしてとうとう、車掌につかまるでなし小倉駅に降り立つことができた。時に、9時過ぎ。当然なのか、T井の姿は、小倉駅になかった。がっくりの私だったが、この駅、伝言板なかったっけ?ついで申せば、彼女も当時の実家の電話番号、知ってたはずだが?後日、本人が言ったには、8時ごろまで待ったそうだ。結果的に待ちぼうけを食わせたことはすまなくおもったが、きびすを返すのは当然としても、ちょっと知恵が足りないんじゃなかったか?
この出来事は、どうやら私の未来と、T井の心持ちを表していたようだ。もし劇的な?再会を果たして、ゆきずりでハグしてファックしていたら、私はT井の偽善に気づこうが裏切りに見舞われようが、左翼を離れなかったかもしれない。ただし、そうなったところでいつしかあやめたかもしれないけど。内ゲバともいうか?そして私は左翼を除名になって、ムショ帰り・・・てか?また、もしも彼女が「しょうがねえな〜。やることもないし、時間つぶしてやっか」と私を待っていたなら、やはり違った展開はもとより、違った人生になったのは確実だっただろう。要するに、たぶらかしているうえに根っから信用しているわけでもない相手を、心待ちにするわけはなく、思い通りにならなかったところで唾棄するだけだったのだ。私なぞどうでもよかった、といえばそれまでだろう。そのくせ、他人様のやることに仲間面して干渉したのだから、へたな詐欺師よりよほどたちが悪い。確かに、偽善が使えない悪人なんて、いないけど。このすれ違いにもかかわらず、私はT井を見抜けないでいたし、見る目が曇っていた。
この日のおちは、結局母親が小倉駅に迎えにきてくれたところで、実家に帰るが帰るまで、がみがみがみがみ怒られた。(笑
「事実は裏切らない、口じゃ何とでも言える」
ということが証明されたにもかかわらず、私の目は曇りっぱなしだった。
kimitoki
まだまだつづく